マインドフルネスとは、意図的に「今、この瞬間」に意識を向ける心の在り方や、そのトレーニング法のことを言います。マインドフルネスは、集中力や自己認識力の向上、ストレスの軽減といった効果が期待できることから、ビジネスや医療の現場で導入・応用されるようになっています。今回は、マインドフルネスの概要やメリットについて解説していきます。
マインドフルネスとは、意図的に「今、この瞬間」に意識を集中させる心の在り方、もしくはその実践法のことを言います。マサチューセッツ大学医学大学院教授で、同大マインドフルネスセンターの創設所長であるジョン・カバット・ジン氏は、マインドフルネスを「意図的に、今この瞬間に、価値判断することなく注意を向けること」と定義しています。
私たちの心は常に波立っており、日々の不安や他者からの評価、仕事のプレッシャーなど様々な雑念に支配されがちです。このような雑念を鎮め、「今、この瞬間」だけに集中できるような精神状態へと導いていくのがマインドフルネスです。
マインドフルネスな状態になるための手法として有名なのが「瞑想」で、「マインドフルネス瞑想」とも呼ばれています。マインドフルネス瞑想をおこなうことで余計な雑念が消え、集中力を高める効果があるとされています。また、不安やストレスから解放され、心身のコンディションを整える効果も期待されます。
マインドフルネスが注目されるようになった背景にあるのが、社会の大きな変化です。近年は、ITを中心としたテクノロジーの発展によって便利な社会が実現しつつある一方で、長時間労働による疲労、競争社会における焦り、将来に対する不安、人間関係のトラブルなど様々な要因から、人々は多大なストレスを抱えるようになりました。メンタルヘルスに不調をきたし、うつ病などの精神疾患に悩む人も増えています。このような、現代人が抱える課題に対する解決策として注目されるようになったのがマインドフルネスです。
マインドフルネスを実践することで、不安やストレスから解放されるだけでなく、集中力や自己認識力の向上にもつながるという研究結果があります。そのため、GoogleやIntel、IBMといった世界的な企業が、従業員の能力開発のためにマインドフルネスを活用するようになりました。日本においても、トヨタやヤフー、メルカリなどの大企業がマインドフルネスを導入しており、社員研修にマインドフルネス瞑想を取り入れる企業も増えています。また、医療や教育などの分野でも注目度が高まっており、うつ病や不安障害などに対する心理療法としてもマインドフルネスが用いられるようになっています。
マインドフルネスの効果として一般的に言われているのが、「集中力の向上」「ストレスの軽減」「自己認識力の向上」「幸福度の向上」などです。
マインドフルネスとは、端的に言えば「今、この瞬間」に意識を向けるトレーニングです。そうすることで、余計な考えを捨て去ることができ、目の前のことだけに集中する力が養われていきます。
私たちは、「今、この瞬間」に起こっていることに意識を向けている時間は意外と少なく、電車に乗っているときも、誰かと話しているときも、未来に対して不安を感じていたり、過去のことを引きずっていたりするものです。心理学者であるマット・キリングスワース博士がおこなった研究でも、「人は46.9%の時間を今やっていることに意識を向けず、うわの空で過ごしている」ということが分かっています。だからこそ、マインドフルネスで「今、この瞬間」に集中することが大事なのです。
マインドフルネスを繰り返すことで、より集中力が磨かれていくと言われています。瞑想などを毎日の習慣にして、それを半年、1年と継続していけば、集中力の向上を実感できるようになるでしょう。
マインドフルネスによって期待できる大きな効果が、ストレスを軽減できることです。私たちのストレスの多くは、未来への不安や過去の後悔など、「今、この瞬間」ではないことが原因になっています。マインドフルネスで「今、この瞬間」だけに意識を向けることで、未来への不安や過去の後悔から解放され、ストレスが和らいでいきます。
たとえば、嫌な思いが浮かんだとしても、その事実だけを認識できるようになり、「なぜ、あんなに嫌な思いをしたんだろう・・・」「また同じ思いをしたくない・・・」というように過去や未来にとらわれる悪循環に陥らなくなります。
実際に、マインドフルネスがストレス緩和につながるという研究結果もあります。脳にある扁桃体は、不安や恐怖を感じると活性化しますが、ある研究で、マインドフルネスを実践することで扁桃体の活性化が抑えられることが分かりました。その結果、恐怖や不安を感じにくくなり、ストレスの軽減につながるのです。
マインドフルネスには、自己認識力を高める効果もあります。自己認識力とは、自分の感情や価値観、強み・弱みや行動パターンなどに気付き、客観的に自分を見つめる能力のことで、英語では「セルフ・アウェアネス(Self-awareness)」と言われます。自己成長や意思決定、人間関係の構築などに重要な役割を果たす能力であり、優秀なリーダーは自己認識力が高い傾向にあると言われます。
マインドフルネスで「今、この瞬間」に注意を向けることで、自分がどのような思考・感情を抱いているのかに気付けるようになります。自分の思考や感情を客観的に観察することで、「自分とは何者なのか?」「自分はどのような価値観を持っているのか?」を理解しやすくなります。そして、自分の良いところも悪いところも受け入れることができるようになるのです。
マインドフルネスとは、意図を持って「今」「ここ」に注意を向けることであり、そのためのアプローチとしては「瞑想」が用いられるのが一般的です。マインドフルネスのための瞑想は、「マインドフルネス瞑想」とも呼ばれます。
ひと言で「瞑想」と言っても、静座瞑想や歩行瞑想、食べる瞑想やボディスキャン瞑想、ヨガをしながらの瞑想など、様々な種類があります。今回は、一般的で取り組みやすい「静座瞑想」と「歩行瞑想」についてご説明します。
静座瞑想は、座った姿勢でおこなう瞑想です。呼吸や身体の感覚に意識を向けるのがポイントです。
▼準備
・静かな場所を選びましょう。
・座布団やマット、椅子を使っても構いません。
・スマホの電源は切りましょう。
・リラックスできる衣服を着用しましょう。
▼手順
①背筋をまっすぐ伸ばし、肩の力を抜いて座ります。あぐらをかいて床に直接座っても良いですし、椅子に座っても構いません。座布団やマットに座ってもOKです。
②目を閉じます。
③呼吸に意識を集中させます。呼吸のリズムをコントロールする必要はなく、自然な呼吸をします。
④息を吸い込んだときはお腹の「ふくらみ」を、息を吐いたときはお腹の「引っ込み」を感じ取ります。
⑤自分の意識が呼吸から離れたことに気付いたら、静かに呼吸に意識を戻します。
静座瞑想の時間は、1日10分くらいが目安です。慣れてきたら、徐々に時間を延ばしていくのが良いでしょう。
歩行瞑想とは、歩きながらおこなう瞑想です。足裏の感覚に意識を向けるのがポイントです。
▼準備
・歩きやすい場所を選びましょう。安全な場所であれば屋外でも構いませんが、最初は屋内でおこなうのが良いでしょう(以下、屋内での歩行瞑想を前提にご説明します)。
・リラックスできる衣服を着用しましょう。
・靴下は脱ぎ、裸足でおこないましょう。
▼手順
①背筋をまっすぐ伸ばし、リラックスした姿勢でゆっくりと歩きます。静座瞑想のように目を閉じる必要はありません。普段歩くスピードより遅めのペースで、ゆっくりとしたリズムで歩くのがポイントです。
②歩いているときは足裏の感覚や足の動きに意識を集中させます。床との接地感や足の動きを感じながら、その瞬間に集中しましょう。
③「かかとが着いた」「つま先が離れた」など、一歩一歩の動作を細かく感じ取ります。
④自分の意識が歩行から離れたことに気付いたら、静かに歩行に意識を戻します。
歩行瞑想も、1日10分くらいから始めるのが良いでしょう。
マインドフルネスを実践する方法は瞑想だけではありません。今回は、「葉っぱのエクササイズ」と「レーズンエクササイズ」という方法をご紹介します。
葉っぱのエクササイズは、マインドフルネスを実践するための簡単なエクササイズです。一般的なやり方は以下のとおりです。
①河原に立って、目の前の川を眺めている自分をイメージします。
②葉っぱが1枚、また1枚、ゆったりと流れていきます。
③「今、どのような思考・感情を抱いているのか?」に意識を向け、浮かんできた思考や感情を一つずつ葉っぱに乗せていきます。このとき、思考・感情の良し悪しなどを評価してはいけません。客観的に観察するだけにしましょう。
④葉っぱは自然に流れていきます。無理に流そうとせず、川の流れと葉っぱを観察しましょう。
時間は10分くらいが目安です。最初は短時間から始めて、徐々に時間を延ばしていくのが良いでしょう。
レーズンエクササイズも、マインドフルネスを実践するための簡単なエクササイズで、「食べる瞑想」とも言われます。一般的なやり方は以下のとおりです。
①レーズンを数粒用意します。
②レーズンを一粒手に取り、じっくりと目で観察し、指を使って形状や質感を感じます。
③レーズンを鼻に近づけてにおいをかぎ、香りに意識を集中させます。
④レーズンを口に入れ、舌の上で転がしたり、歯で噛んだりします。舌や歯、口の中全体に意識を向け、味や食感を感じ取り、じっくりと味わいながらレーズンを食べます。
このように、五感を使ってレーズンを味わうことで「今、この瞬間」に意識を向けるエクササイズです。必ずしもレーズンである必要はなく、他の食べ物でおこなっても構いません。
マインドフルネス瞑想を実践する際の注意点として、以下の2点を押さえておきましょう。
マインドフルネス瞑想の効果を実感するためには、継続的な実践が必要です。マインドフルネス瞑想を始めたからといって、すぐに変化を感じられるわけではありません。1回は短時間でも、それを毎日続けることで、「集中力が上がった」「頭の中がクリアになった」といった変化を実感できるようになります。最初は1日5分など、負担にならない時間でスタートし、それを毎日継続していきます。慣れてきたら10分、20分と時間を延ばしても良いでしょう。
マインドフルネス瞑想では、無心になる必要はありません。「今、この瞬間」の自分に集中することが大切です。最初のうちは、関係のない物事へ意識が逸れることも多いでしょう。しかし、雑念が湧いてきたとき、無理に「集中しなければ」と考える必要はありません。意識が逸れたという事実を受け止め、ゆっくりと呼吸に意識を戻します。呼吸に集中した結果、呼吸のこと以外は頭からなくなる状態がマインドフルネス瞑想の一つの理想です。
マインドフルネスを実践するにあたって、注意を要するのは精神疾患を抱えている方です。精神的に過度なストレスを抱えた状態でマインドフルネスをおこなうと、過去のトラウマなどがフラッシュバックして症状が悪化してしまうおそれがあります。また、精神疾患を抱えている方はマインドフルネスによって不安が増幅して、より不安定な状態になってしまうことがあります。
うつ病やPTSD、不安障害などの精神疾患を抱えている方は、マインドフルネスはできるだけ避けたほうが良いでしょう。もし、マインドフルネスをおこなう場合は、主治医と相談のうえで実践するようにしてください。
マインドフルネス瞑想の効果に対して懐疑的な見方もありますが、近年、様々な研究によってマインドフルネス瞑想の効果が実証されつつあります。いくつかの研究結果をご紹介しましょう。
マインドフルネス瞑想は、ストレスや不安、抑うつに有用である可能性があります。2018年に米国国立補完統合衛生センターが支援した、不安症やうつ病などの精神疾患と診断された142グループの参加者の解析では、マインドフルネス瞑想のアプローチを、無治療、認知行動療法や抗うつ薬などの確立したエビデンスに基づく治療と比較して検証しました。その結果、不安症やうつ病の治療において、マインドフルネスに基づくアプローチはまったく治療をおこなわないよりも優れており、エビデンスに基づく治療と同様に有用であることが明らかになりました。
※参考:厚生労働省eJIM | 瞑想[各種施術・療法 – 一般]
https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/overseas/c02/07.html
マインドフルネス瞑想は、不眠症の軽減や睡眠の質の向上に有用である可能性があります。2019年におこなわれた18件の研究(参加者合計1,654例)の解析では、マインドフルネス瞑想は、教育に基づく治療よりも睡眠の質を向上させることが分かりました。
※参考:厚生労働省eJIM | 瞑想[各種施術・療法 – 一般]
https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/overseas/c02/07.html
ハーバード大学とマサチューセッツ大学医学部の研究では、16名が1日平均27分間のマインドフルネス瞑想を8週間続けた結果、脳の扁桃体の縮小が認められました。扁桃体とは、不安やストレス、恐怖などの感情を生み出す脳の部位です。扁桃体が活性化していると興奮しやすくなり、ちょっとした出来事に敏感になりやすくなります。この研究では、マインドフルネスによって扁桃体が縮小し、刺激に過剰に反応したり、怒りに身を任せたりするのを抑制できることが示唆されたのです。
※参考:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3004979/pdf/nihms-232587.pdf
マインドフルネスに関する資格のなかでも、おすすめなのが、日本メディカル心理セラピー協会(JAAMP)が認定する「マインドフルネスセラピスト」です。
マインドフルネス瞑想は、「今、ここ」の状態に「マインドフル=満たされる」状態を求めます。その効果として、ストレスの緩和、モチベーションの向上、集中力やクリエイティビティの強化などが得られます。マインドフルネスセラピストは、このようなマインドフルネス瞑想の知識と効果、注意点、様々な方法について十分に理解していることを証明できる資格です。
マインドフルネスセラピスト資格認定試験の詳しい内容は、以下のページで解説しています。
マインドフルネスは、特別な場所や道具を必要とせず、誰でも簡単に始められるのが魅力です。あなたの日常にも、マインドフルネスのプログラムを取り入れてみてはいかがでしょうか。興味のある方は、マインドフルネスセラピストの資格を取得すると、より理解が深まるはずです。
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