音楽療法とは、「音楽の持つ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること」(日本音楽療法学会による定義)です。
アメリカで発達してきた音楽療法は、現在日本でも注目されてきており、発達障害の支援や介護予防など幅広い対象者にさまざまな場面で利用されています。
では、音楽療法の目的と効果とはどのようなものなのか、具体的にご紹介します。
(参考元: 日本音楽療法学会HP https://www.jmta.jp/)
音楽療法は、音楽が持つ力を利用することで、さまざまな効果を得ることができます。
音楽のリズムやメロディは、不快な気分やいらだち、不安などをやわらげ、心をリラックスさせることができます。
また、心地よい音楽を聴くことで、痛みにさいなまれた体の感覚を、心地よい感覚に置き換えてくれることがあります。
音楽は、言語を必要としない非言語的コミュニケーションを可能にします。
歌や楽器演奏、ダンスなどは、言葉を使わなくても周りの人と一緒に同じフレーズを口ずさんだり、同じタイミングで体を動かしたりすることが出来るので、言葉でのコミュニケーションをとることが難しい方でも集団の輪に入って社会性や協調性を学ぶきっかけとなります。
衝動性や攻撃性を強く持っていたり、感情を表現できず自分の殻に閉じこもっていたりと、うまく自己表現や感情表出ができない方にとって良いアプローチをすることができます。
楽器を演奏したり歌を歌ったりダンスをしたりすることによって、気分を安定させたり自分の思いを表現したりすることを手助けすることが出来ます。
楽しい音楽を聴くと、自然と体が動きやすくなります。歌を歌うことは口腔機能や肺機能を鍛えることができ、楽器演奏やダンスは指先や体の動きを鍛えることが出来ます。
また、パーキンソン病という体のリズムがうまくとれなくなるなどの症状がある病気では、音楽に合わせることで体がスムーズに動くことがあります。
続いては、音楽療法を行う目的についてみていきましょう。
上記のように、音楽療法にはさまざまな効果があります。その効果を意図的かつ計画的に利用し、対象者の生活での困りごとを改善し、生活の質(Quality of Life=QOL)を向上することが、音楽療法を行う目的です。
例えば、とある発達障害をもつ子どもがいて、感情のコントロールが出来ずに周囲に攻撃的で、うまく自分の思いを伝えられないことが改善したい点だとします。
このとき、この子どもに対しての音楽療法の目的は、音楽を用いてその攻撃性を発散する方法を発見することと、音楽を用いて自己表現の経験をもつことで自分の思いを伝える自信をつけることになります。
このような個別のケースだけではなく、活動性の低下した認知症患者の集団活動の際に、懐かしい歌をみんなで歌うことで、周囲の反応に呼応しあう形で集団全体の活動性の向上を目指すパターンもあります。
音楽療法は、年齢や病気・障害の有無にかかわらず、音楽を利用することで生活をよりよくしたいと願う人すべてが対象となります。
音楽療法では、まず対象者の音楽に対する反応を評価したうえで、その対象者にあった目的や方法を検討します。ひとりひとり、音楽療法を行う方法や目的はちがってくるのです。
実際に音楽療法を行う現場についてご紹介しましょう。
病気になると、身体的な痛みや精神的な不安がつきまといます。そのような症状に対しては、薬物療法が多く用いられますが、音楽療法も併用することで、その緩和を図ります。
特に、ホスピスや緩和ケア病棟では、積極的な医療処置による回復が難しいケースが多くみられます。最期のときまでいかに穏やかに時を過ごしてもらうかが大切になり、音楽の力がその助けになることがあります。
病気などによって、体の痛みや、言葉にできない心の痛みを抱える対象者に対して、音楽という非言語的コミュニケーションによって、感情表現を促します。
また、音楽のリズムやメロディなどが、辛い感覚を心地よい感覚に置き換えてくれることも期待できます。
精神障害により心のバランスを崩した方のコミュニケーションや自己表現を促したり、気分を安定させたりするために、音楽療法は提供されます。
例えば、統合失調症などで自分の世界に閉じこもって、他者との関わりを拒絶している方に対して、ダンスや歌など集団での音楽活動を用いて、周囲の人間との非言語的コミュニケーションを促すことができます。
自分の外の世界とのつながりを作るツールとして、音楽を用いるのです。
また、自信を喪失している方や無力感が強い方が、音楽によって活動性が高められ自信を回復される方もいます。
精神科ではカラオケがよく用いられますが、これは攻撃性が強くなっている方のストレス発散や、楽しい時間をもつことで幻覚や幻聴を忘れる時間を作ることなどの目的もあります。
病気や事故による入院や通院という突然の環境変化は、運動機能の低下はもちろん不安感などから意欲の低下にもつながり、治療のためのリハビリテーションに影響を及ぼすことがあります。
そこで、気分の改善や意欲の向上を目的に音楽療法を行い、前向きにリハビリテーションに取り組むきっかけ作りにすることが出来ます。
また、病気や事故によって身体的・精神的変化を生じ、以前と同様の生活が送れなくなった方に対して、新たな生きがいや趣味として音楽を提案することができます。
介護予防教室でも音楽療法は利用できます。転倒予防体操や運動不足解消のためのダンスは、音楽を併用することで脳を活性化し、身体が動かしやすくなります。
懐かしい歌を歌ったり演奏したりすることも多く見られますが、記憶をつかさどる脳の部位を活性化させるため、脳トレとしても有効で認知症予防にも理にかなっています。
認知症の症状には、よくイメージされる記憶障害のほかにも、不安感やうつ状態、攻撃性、妄想や幻覚など多くの症状がみられます。
認知症の音楽療法では、新しく覚えることが難しい対象者に対して、思い出しやすい昔懐かしい歌を用います。分からないことが多くなる中で、知っている懐かしい歌を歌ったり演奏したりすることは、昔の楽しい記憶を蘇らせ、気持ちを穏やかにする効果が期待できます。
また、認知症になり出来なくなることが増えて、自信をなくしてうつ状態となることも多いですが、このように知っている歌を取り入れ、難しくならない程度に段階づけた演奏やダンスを利用し、自信を取り戻して活動性を高めることも期待できます。
症状が重く、言語的コミュニケーションが困難になった方も、音楽を用いることで歌や体の動きを引き出すことが出来ることもあります。
音楽は子どもに親しみを持って受け入れてもらいやすく、発達障害の療育に音楽療法は有効であるとされています。
音楽療法で用いるダンスや楽器演奏や歌などは、発声や体の運動、道具の利用や楽器の振動など、多くの感覚を体に同時に取り入れることができ、感覚統合訓練として利用されています。
また、コミュニケーション能力や社会性・協調性の向上のためにも、音楽療法が用いられます。
集団での音楽活動は言葉を介さなくとも他の子どもと同じ音を奏でたり、周囲の音に合わせたりすることが出来るので、学校などの生活場面で周囲と合わせる能力を身に着けることが出来ます。
音楽療法は、音楽が持つ力を利用することで、リラクゼーション、不安や痛みの軽減、コミュニケーションの支援、自己表現・感情表出のサポート、身体機能の維持・改善など、さまざまな効果を得ることができます。
音楽療法を行う目的は、音楽のもつさまざまな効果を意図的かつ計画的に利用し、対象者の生活での困りごとを改善し、生活の質(QOL)を向上することです。
音楽療法は、年齢や病気・障害の有無にかかわらず、音楽を利用することで生活をよりよくしたいと願う人すべてが対象となります。
まず対象者の音楽に対する反応を評価したうえで行われるので、ひとりひとり、音楽療法を行う方法や目的は異なります。音楽療法は、病院などの医療機関、高齢者向け施設などの福祉施設、教育機関や療育などを行う施設などで行われています。
ただし、まだ多くの病院や施設で導入されているわけではなく、今後の発展が期待されてるというのが現状になります。ぜひ、音楽療法の担い手の一歩を踏み出してみませんか。
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