音楽療法は脳の活性化につながることから脳血管疾患患者や認知症患者に対する効果が期待されています。アプローチする分野は広く、運動能力強化や認知力向上、コミュニケーション能力上昇など多岐に渡ります。
今回は高齢者に絞って、音楽療法の具体的な介入方法や訓練内容をご紹介します。
まずは、音楽療法についてみていきましょう。
日本音楽療法学会によると音楽療法とは、
『音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること』
とあります。
(参考元: 日本音楽療法学会HP https://www.jmta.jp/)
高齢者への音楽療法の効果は大きく3に分けられます。
1つ目は脳血管疾患の後遺症として脳機能障害のある方に対する効果です。代表例として運動障害性構音障害が挙げられます。運動障害性構音障害とは発話に関連した運動を制御する神経・筋系の異常に起因する構音障害です。
発話が非流暢になった方に歌唱訓練を実施することで、口腔機能向上や発話速度の上昇が期待できます。
2つ目は認知機能向上効果です。認知症を患い、円滑な意思疎通が困難になった方に対して音楽療法を実施し、認知機能上昇やストレス緩和を狙います。人とのやり取りが失われると認知症の症状は進行する一方です。
外部からの働きかけに応じることにより認知症の進行を遅めると言われます。
3つ目は四肢や体幹の運動機能向上です。リハビリにおいて、単調なプログラムは患者のモチベーション低下につながります。楽器を用いた運動や、曲に合わせた運動により充実感を得ながら訓練することが可能です。
高齢者に対する音楽療法プログラムの立て方について、ご紹介します。
まずは診断名、成育歴、家族構成、認知レベル、コミュニケーション能力、精神面、身体面、音楽の好みなどの情報を集めます。
また、ニーズを聞き出すことが重要です。本人や家族がどうなりたいのか、最初に聞いておきます。主治医がいる場合は医者の意見と、他のセラピストからも情報を集めます。
対象者は何ができ、何ができないのか把握します。
また、本人のニーズだけでなく、他にも音楽療法で改善の見込みのある機能は介入を検討します。
次に、アセスメント表を作成します。アセスメント表に個人の情報や音楽療法の目的を明記しておきます。
そして、目標設定を行います。家族のニーズなどから長期目標を設定し、長期目標を達成するために必要な短期目標を設定します。目標は領域ごとに設定します。
①身体的な目標。粗大運動能力や微細運動能力の向上を図ります。
②心理的な目標。達成感や自尊心の獲得を目指します。
③認知的な目標。注意力や記憶力、判断力の維持向上を図ります。
④感覚的な目標。視覚や聴覚、触覚機能などの向上を図ります。
⑤社会的な目標。協調性、社会性、感情表出などの向上を図ります。
⑥言語的な目標。コミュニケーション能力の向上を図ります。
目標が明確になったらプログラムを設定します。セッションの形態、場所、時間、頻度などを設定します。他のセラピストと共通することが多いですが、音楽療法において、どこで実施するかという場所の問題は重要です。
相手の心理的な負担も考えて音楽療法室や言語聴覚室などの個室を使うか、レクリエーションルームや食堂で行うかなど、適した場所を判断しなければなりません。
場所が決まったら音楽や楽器を決めなければなりません。口腔器官の向上なら楽器は必要なく、音楽療法士の伴奏に合わせて歌う。あるいは口腔体操を行うことが有効です。
認知症の方には好きな曲を歌ってもらう。また、その曲が流行った当時の思い出話をしてもらうなども効果があります。
また、ハンドベルなどを用いて、特定の場所で鳴らしてもらうよう促し、注意力や判断力の課題を実施することもあります。できないことを連続して実施すると自己肯定感が下がるため、易しめの課題を実施します。
また、認知症の方の好きな曲を聴かせ、リラックスしてもらうのも受動的音楽療法として成り立ちます。
身体的な目標を達成するためには、音楽に合わせて運動する必要があります。
音楽療法でよく取り入れられるのは、水前寺清子の365歩のマーチによる足を中心とした運動や氷川きよしのズンドコ節で腕を中心とした運動などです。他にも、ドリフターズのエンヤーコラヤで踊ることもあります。
振付を即興で付けるのは大変なため、ビデオなどで録画して流します。見本は立っているものと座っているものがあると親切です。
セッションを終えたら観察結果を記録します。本人の許可があれば録画しておくと良いです。
カンファレンスでは他の医療従事者と意見交換をおこない、目標が達成されているか、修正すべきではないかと話し合います。そして、新たな見通しが立ったら、また次のセッションを行います。
次に評価が行われます。評価は主に2種類に分かれ、アセスメント用とセッション用があります。
アセスメント用は、主に他職種も用いる評価表を用います。
例えば、MMSE、HDS-R、FIMなどがあります。これらは他職種が採ってしまうこともありますが、音楽療法士も実施できるようにしておいた方が良いです。
また、他職種の方が採った場合は結果を確認しておきましょう。
次にセッション用の評価用紙があります。これは音楽療法士以外が用いることはありません。各自、独自の評価用紙を作成することが多いですが、代表的なものをいくつか紹介します。
音楽療法評価チェックリスト(MCL-S)は老人性慢性疾患・脳血管障害の後遺症による手足のまひや言語障害・リュウマチ疾患・交通事故の後遺症などの症状を持つ人の音楽療法に際して、精神機能、身体機能の現状を音楽的行動の側面から捉えるために作成されたものです。
他にも卯辰山式音楽活動評価表や痴呆症音楽療法尺度、音楽行動チェックリストなどがあります。独自の評価表やこれらの評価表の適したものを選び、評価を行います。
目的に応じて曲を使い分けます。
認知症患者に対して回想法を用いるならその対象者が知っている昔の曲を使います。運動障害性構音障害の方に対しては、必ずしも昔の曲を用いるわけではありません。本人と相談して興味のあるジャンルの歌を練習することもあります。
四肢や体幹の運動機能向上を目的とした場合は、知っている曲や好きな曲を選ばないこともあります。
また、見当識向上の目的のため、季節に合った曲を選曲することも重要です。
音楽療法には個人音楽療法と集団音楽療法があります。
音楽レクリエーションは主に集団で実施されますが、音楽療法はどちらも実施されます。個人で実施する場合は目的を絞って介入することが可能ですが、集団音楽療法では同様の訓練が必要な対象者を集める必要があります。
能動的音楽療法と受動的音楽療法の分け方もあります。
能動的音楽療法は対象者が歌や演奏、運動を通して参加する音楽療法です。
一方、受動的音楽療法は主にリラクゼーションを目的とした音楽療法で、対象者は歌や演奏を聴くだけで効果が得られるセラピーです。
高齢者に対して音楽療法は、脳血管疾患後遺症、認知症、身体機能低下などのリハビリのために実施されています。音楽療法に懐疑的な見方もあり、まだ国家資格として認定されていませんが、音楽療法を通じて多くの人が笑顔になります。
ただ、気分転換のために音楽を聴くだけでなく、自ら歌や楽器を用いて円滑に意思疎通ができるようになれば、QOLが大幅に上がると思います。
また、単調だった歩行訓練も、音楽のリズムに合わせることで楽しさが追加されるなど、うまく実施できればとても喜ばれる分野です。
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