
学校現場で子どもたちや教職員の心のケアを担う「スクールカウンセラー」の重要性は近年ますます高まっています。本記事では、スクールカウンセラーの役割や必要な資格、具体的な仕事内容から年収・将来性までを徹底解説します。スクールカウンセラーを目指す方はもちろん、学校関係者や保護者の方にも役立つ情報をお届けします。
スクールカウンセラーとは、心理学の専門知識を持ち、学校現場で児童・生徒、教職員、保護者の心理的サポートを行う専門家です。文部科学省の政策により、1995年度から全国の公立学校に配置が始まり、現在では多くの学校に導入されています。
スクールカウンセラーは単に「子どものカウンセラー」というだけではなく、学校という環境の中で生じる様々な心理的問題に対応する幅広い役割を担っています。児童・生徒の心の悩みを聞くだけでなく、教職員への専門的助言や保護者支援など、学校全体の心理的健康を支える重要な存在です。
近年、いじめや不登校、発達障害への対応、家庭内の問題など、子どもたちを取り巻く環境は複雑化しています。また、SNSの普及による新たな対人関係のトラブルも増加しています。
文部科学省の調査によれば、令和5年度(2023年度)の不登校児童生徒数は約30万人、いじめの認知件数も全国で年間70万件を超え、いずれも過去最多の状況です。このような問題に適切に対応するため、心理の専門家であるスクールカウンセラーの必要性は高まっています。
参考:令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要|文部科学省
スクールカウンセラーと混同されがちな職種に「スクールソーシャルワーカー」があります。
スクールカウンセラーは「心理」に焦点を当て、カウンセリングを通して個人の内面的な問題解決を図りますが、スクールソーシャルワーカーは「環境」に着目し、子どもを取り巻く家庭や地域、学校などの環境改善を主な役割としています。
学校現場では、この両者が連携して子どもたちの支援にあたることが理想的とされています。
スクールカウンセラーの最も基本的な業務は、児童・生徒へのカウンセリングです。勉強の悩みから友人関係のトラブル、家庭内の問題まで、様々な相談に対応します。
子どもたちは大人と比べて自分の気持ちを言語化することが難しいため、スクールカウンセラーは子どもの発達段階に合わせた専門的な技術を用いて、その心の声に耳を傾けます。
保護者へのカウンセリングや相談援助も、スクールカウンセラーの重要な業務です。子育ての悩みや子どもの発達に関する不安、学校生活での問題など、保護者が抱える様々な心配事に対応します。
保護者面談を通じて家庭環境を把握することは子どもへのより効果的な支援にもつながります。
スクールカウンセラーは、教職員に対して専門的な立場からコンサルテーション(専門的助言)を行います。これは単なる助言ではなく、心理学的な知見を踏まえた専門的な視点を持ったアドバイスです。
教職員は日々の業務に追われる中で、専門的な助言を得られることで大きな安心感を得られることが多いようです。
スクールカウンセラーは必要に応じて、児童・生徒の心理状態を客観的に把握するための心理検査やアセスメントを実施します。
学校現場でよく用いられる検査には以下のようなものがあります。
学校内で事件や事故、災害などの危機的状況が発生した際、スクールカウンセラーは心理的支援の専門家としての役割を果たします。
危機対応では、トラウマケアの専門知識やストレスマネジメントの技術が求められ、状況によっては外部の専門機関と連携することもあります。
スクールカウンセラーは、教職員や保護者、時には生徒に対して、心理教育に関する講演や研修を実施することがあります。
心理教育の実施は問題の予防的役割を果たし、学校全体の心理的健康を促進する効果があります。
スクールカウンセラーは、問題が顕在化する前の予防的な取り組みも重要な業務です。ストレスチェックなどのスクリーニング調査を実施し、リスクが高い児童・生徒を早期に発見・支援することで、深刻な問題への発展を防ぎます。
スクールカウンセラーには、児童・生徒、保護者、教職員など様々な立場の人と良好な関係を築くコミュニケーション能力が不可欠です。特に子どもとのコミュニケーションでは、年齢や発達段階に応じた話し方や聞き方を工夫する必要があります。
効果的なコミュニケーションのためには、言語的なスキルだけでなく、表情や姿勢などの非言語的要素も重要です。相談者が安心して話せる雰囲気づくりもカウンセリングの成否を左右する要素といえるでしょう。
スクールカウンセラーに最も求められる2つ目の資質は、相手の気持ちに寄り添う共感性と話をしっかり聴く傾聴力です。
①相手の立場に立って感情や考えを理解しようとする共感の姿勢と、②相手の話の内容や感情を正確に理解し、適切な応答ができる傾聴力は、相談者が安心して本音を話せる関係性を築くために欠かせません。
スクールカウンセラーには論理的思考力も求められます。相談者が抱える様々な問題を整理し、適切な支援方針を立てるために必要な資質です。
優先的に対応すべき課題を特定したり、専門的な見解を論理的かつわかりやすく説明する能力も重要です。
個人情報を取り扱うスクールカウンセラーには、相談者のプライバシーを守る高い倫理観と守秘義務の意識が不可欠です。
情報共有か守秘かのジレンマに直面した際に適切な判断が求められます。
心理学、教育学の分野の進化と、子どもを取り巻く環境の変化に対応するために、今ある知識に満足せず、常に最新の理論や技法を学び続ける生涯学習の姿勢が求められます。
スクールカウンセラーになるためには、文部科学省が定める以下の3つのいずれかの資格要件を満たすことが基本となっています。各都道府県の教育委員会による採用基準も一般的に同様です。
スクールカウンセラーの大多数は、臨床心理士または公認心理師の資格保持者です。特に臨床心理士は長くスクールカウンセラーの中心的な資格とされてきました。
公認心理師は2017年に誕生した国家資格で、心理職としての国家資格は初めてとなります。今後はこの資格保持者がスクールカウンセラーの主流となっていくことが予想されます。
精神科医もスクールカウンセラーとして認められています。医師の場合、心理診断や精神疾患の診断ができる点が強みです。
医師の場合でもスクールカウンセラーの活動においては診断書の発行などは行わず、基本的には医療機関への紹介を行います。
文部科学省の基準では、以下の条件を満たす「スクールカウンセラーに準ずる者」も採用対象としています。
これらの条件を満たす場合でも、公認心理師や臨床心理士といった資格を持っている正規のスクールカウンセラーと比べると採用の優先度は低くなる傾向があります。
参考:スクールカウンセラー等活用事業実施要領|文部科学省
スクールカウンセラーを目指すなら、心理学を専門的に学べる大学を選ぶことも選択肢の一つです。
大学・大学院選びでは、以下のポイントに注目するとよいでしょう。
公認心理師の資格取得を目指すなら、「公認心理師養成大学等連盟」に加盟している大学・大学院を選ぶと安心です。以下の参考ページの「4.公認心理師となるために必要な科目を開講する大学等」から一覧がご覧になれます。
参考:公認心理師試験の受験を検討されている皆さまへ|厚生労働省
仕事を続けながらスクールカウンセラーを目指したい場合などは、通信制大学も選択肢の一つです。以下の大学では、心理学を学べる通信教育課程を設けています。
民間のカウンセリング資格や子どもの心理学に関する資格の取得は、スクールカウンセラーへの入門としておすすめです。チャイルド心理カウンセラーや子供心理カウンセラーなどの資格は、民間スクールや通信講座で取得可能で、大学と比べ短期間かつ低コストに抑えることができます。
これらの資格を持つことで、学習塾や子育て支援センター、フリースクールなどで子どもの心のケアに携わることができます。また、将来的に公認心理師や臨床心理士を目指す場合の基礎知識を得ることもできるでしょう。学びやすさと実践的な知識の両立が魅力です。
参考:
● チャイルド心理カウンセラー®資格認定試験
● 子供心理カウンセラー®(チャイルド心理資格)
スクールカウンセラーの雇用形態は現状「非常勤」が多く、一か所から安定した収入が得られる「常勤」は少数派となっています。そのため多くのスクールカウンセラーは複数の職場を掛け持ちしたり、他の心理職と兼業したりしています。この点は、キャリアプランを考える上で重要な前提となります。
スクールカウンセラーにおける「非常勤」と「常勤」の主な違いは以下の通りです。
非常勤スクールカウンセラー
常勤スクールカウンセラー
スクールカウンセラーの主な勤務先は公立・私立の学校と教育関連施設での勤務に分けられます。スクールカウンセラーは小学校、中学校、高等学校、特別支援学校など、公立校での勤務を掛け持ちすることが多いです。
スクールカウンセラーは学校以外の教育関連施設で勤務することもあります。例えば、以下のような施設での勤務があります。
これらの施設では、学校現場よりも専門的な相談対応が求められることが多く、比較的重篤なケースや複雑な問題に対応することもあります。
近年はオンライン相談を実施している施設もあり、新しい形の相談支援が広がりつつあります。
スクールカウンセラーの収入は勤務形態や勤務先、地域によって大きく異なります。公立学校の非常勤スクールカウンセラーの場合、各都道府県の教育委員会が定める報酬額に従います。
一般的な年収の目安として厚生労働省のサイトが参考になります。
私立学校の場合は学校によって条件が異なりますが、一般的には常勤であるなど公立よりも待遇が良いケースが多いです。
参考:スクールカウンセラー – 職業詳細 | job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))
スクールカウンセラーの収入は、経験年数や保有資格、学歴などによっても異なるのがポイントです。特に公認心理師と臨床心理士の両方を持っている場合や博士号取得者は一般的に優遇されることが多いです。
スクールカウンセラー以外の仕事を掛け持ちすることで、年収を増やすことも可能です。以下のような関連する副業を掛け持ちするパターンが例として挙げられます。
スクールカウンセラーとしてのキャリアアップに有効な方法は、以下のような6つのルートが考えられます。
キャリアアップには継続的な学びが重要です。関連学会への参加や研修受講、スーパービジョンの受講✳︎などを通じて専門性を高めていくことが、長期的なキャリア形成につながります。
* 経験豊富な指導者(スーパーバイザー)から指導や助言を受けること
不登校やいじめ、発達障害への対応など、学校現場における複雑化した問題に対して専門的な支援、アプローチの必要性が高まっています。
文部科学省も「スクールカウンセラー等活用事業」で、24時間電話相談やSNSを使った相談体制の整備を進めるなど、支援に取り組んでいることが分かります。
スクールカウンセラーの将来性は比較的明るいと言えるでしょう。
参考:令和6年(2024年)スクールカウンセラー等活用事業実施要領|文部科学省
スクールソーシャルワーカー(SSW)は、子どもを取り巻く環境に働きかけ、家庭・学校・地域の連携を図る専門家です。
スクールソーシャルワーカーになるには、社会福祉士や精神保健福祉士の資格が望ましいとされています。
養護教諭は、学校保健の専門家として保健室を管理し、児童・生徒の健康管理や心身のケアを行う教員です。けがや体調不良の対応だけでなく、心の悩みの相談に乗ることも重要な役割となっています。
養護教諭になるには、養護教諭免許状を取得する必要があります。
「さわやか相談員」は一部の地域(埼玉県や仙台市など)で導入されている相談員制度です。児童・生徒の身近な相談相手として、スクールカウンセラーより頻繁に学校に在籍し、気軽に相談できる存在として位置づけられています。
さわやか相談員になるためには特定の資格は必須ではありませんが、教育や福祉に関する知識や経験が求められます。
スクールカウンセラーは、学校という場で児童・生徒、教職員、保護者の心の健康をサポートする重要な専門家です。子どもたちが直面する複雑な問題に対して、心理学的な知見を活かして支援する仕事です。
スクールカウンセラーになるためには、心理学の知識が必要です。社会人などで大学に通う余裕がない方には民間資格の取得で知識を付けることがおすすめです。ぜひ当協会の資格も参考にしてみてください。
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